[つばさ] 最新話を投稿:第九章 始まりの終わり 第十節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
まるで帝都の内側が煙ですっぽりと覆われたように、すべてがぼやけていて判然としない。しかし、それでいて凄まじいまでの狂騒の音は、ここまではっきりと響いてくる。
雨と霧と火事とによる煙で、視界はおそろしく悪くなっていた。
たいした高さを飛んでいるわけでもないのに、地上の建物を識別するのが難しい。ましてや、人それぞれを判別できるはずもなかった。
そのうえ厄介なのは、厚くたれ込めた雲だ。日の光を遮ってしまい、まだ昼間だというのが嘘だと思えるほどに周囲を暗い影で包んでいる。ほとんど宵の口に近いような状態であった。
――どこだ、ジャン。
ヴァイクは目をこらしながら、帝都の上空を必死になって飛んでいた。
鳴り響く悲鳴を耳にし、倒れた人の山を目にして、強烈な不安に苛まれつつ、この広い帝都でたったひとりの人物を捜し求めた。
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