[つばさ] 最新話を投稿:第四章 さよならの言葉 第八節 一――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説

2013 年 3 月 7 日

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 空気が張りつめているのに、どこか弛緩していた。
 袋にたっぷりと水は入っているのに、どこかの小さな穴から大切な水が流れ出てしまっているような虚しさ。その穴を塞ぎたくとも、その手段がない。
 そのジレンマ、その苦悩。耐えがたいほどの焦燥がそれぞれの内側を蝕んでいく。
 リゼロッテは動けなくなった。
 みずからの足で立ち上がることができないだけでなく、もう意識があるのかどうかも疑わしい状態だ。
 もう少し進んだところに、かつてロシー族が住んでいたらしい洞穴がある。当初の予定ではそこで休むつもりだったのだが、リゼロッテを無理に動かすことができなくなった今となっては、もうこの木陰で様子を見るしかなかった。
「リゼロッテ……」
 ベアトリーチェは目にうっすらと涙を浮かべながら、少女にあげたはずのスカーフで顔を拭いてやっていた。
 なぜ、もっと早くに気づいてやれなかったのだろう。
 気丈にも一言も弱音を吐こうとはしなかったリゼロッテだが、本当は苦しくて仕方がなかったはずだ。言うに言えない彼女の気持ちを察して、こちらが気づかってやるべきだった。
 いつかこうなるときが来てしまうことはわかっていた。これは、リゼロッテが幼いながらも自分で選んだ道だった。

つづきを読む