[つばさ] 最新話を投稿:第七章 胎動 第一節 二――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
その横でベアトリーチェは、静かに息を吐いた。
――みんな、いろいろあるんだ。
アルスフェルトでの一件以来、さまざまな人に出会い、さまざまなことを教えてもらってきた。
その中で痛感したのは、昔の自分は恵まれた環境にあったということ。
みずからも捨て子ではあるが、そんな過去がかわいく思えるほど、周りの人々の苦悩は深かった。
――私も、なんとかしたい。みんなの力になりたい。
そう強く願うものの、今の状況ではその気持ちは焦りに変わり、自身をさらに追い込んでいくだけ。
どこかのんびりとした周囲の空気が、なぜか恨めしかった。
「おや、神官様ではございませんか」
なかば自分の世界に入りかけていたところを、一言で打ち破られた。
はっとして顔を上げると、いつの間にか隣に、神官衣をまとった細身の青年が立っていた。
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