[牙] Chapter 5 episode: Safe House 4――オリジナル小説(ライトノベル)の連載:最新話
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(冒頭部分)
それは雛子だけでなく、美柚たちも聞き慣れたものだった。
「あ、〈八房(やつふさ)〉」
見れば、庭園の黒い敷石の上で、真っ白な秋田犬が吠えている。
その目は敵意を強め、虚空を厳しく睨みつけている。
「この犬、まだ生きて――誰だ!?」
蓮が鋭く声を発すると、突然、周囲を暗闇が覆っていった。
あっという間に室内まで景色が消え、互いの姿以外、何も見えなくなる。
「ちっ」
舌打ちしつつ、蓮は急ぎ剣袋から刀を取り出した。相変わらず、鞘からは抜けそうにないが。
伝わってくる霊気の波動は、まぎれもなく刺すような敵意を含んでいた。
場にいる全員が身構え、周囲に緊張が走る。
実体は目に見えないが、霊気で近くに何かが来たことだけはわかる。
「――攻撃するぞ」
「待って、洋太! こういうときは、うかつに動かないほうがいい」
めいの言葉は正しかった。
互いの姿はなんとか認識できるものの、周りは一点の光さえない暗幕に包まれたまま。
何が起こるか誰にも予測のしようがない。
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