[つばさ] 最新話を投稿:第二章 敵 第二節――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 風が後方へすっ飛んでいく。
 自分たちのこころを表すかのように澄み渡った空は、笑ってしまうほどに青く抜けていた。
 完全な快晴。
 前方を遮るものは何もなく、この世界のすべての支配者になったかのごとく気分がいい。
〝狩り〟は今日も順調だった。相手は三部族の精鋭を集めたつもりのようだったが、どうということもない。
 自分たちにとっては雑魚と変わりなく、正直少し物足りないくらいだった。
「アセルスタン、やっぱりお前は強いな」
「世辞はよせ。そんなものは、なんの役にも立たん」
 後方を飛ぶ男が親しげに、しかしどこか卑屈に声をかけてくるものの、赤い髪のアセルスタンは一顧だにしなかった。
 事実、後ろにいる連中から褒められても何もうれしくない。
 唯一自分が認める人物は、族長のメイヴだけであった。
「くだらんおべっかを言う暇があったら、剣の腕でも磨くんだな。今のお前らじゃ足手まといになることはあっても、戦力の足しになることはない」
「相も変わらず手厳しい」
 後ろから苦笑の声が聞こえた。
 アセルスタンという男は、いつもこの調子だった。
 歯に衣着せぬ言動、横柄な態度。
 しかし、ある程度はそれが許されるほど、実際に力を持っていることもまた疑いようのないことであった。族長からの信頼も厚く、剣の腕はひとり図抜けていた。

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