[つばさ] 最新話を投稿:第二章 敵 第一節――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 山道を歩くのは、さほど困難なものではなかった。
 翼人は、確かに普段は空を飛んでいることが多い。だが、二本の足がついている以上、地上を歩くこともよくあった。
 問題なのは、ベアトリーチェのほうだ。長い時間、運動することに慣れていないせいなのか、一歩一歩を踏み出すだけでもかなりつらそうに見えた。
「大丈夫か?」
「え、ええ、なんとか……」
「歩くのが速いか?」
「確かに、ちょっと速いかも……」
 とはいえ、リゼロッテはここのところ歩きどおしだというのに平気な顔をしていた。大人である自分が先に音を上げるわけにもいかなかった。
「少し休憩しよう。ちょうどあそこに日陰がある。お互い、無理は禁物だ」
 その言葉に、ベアトリーチェは救われた。
 ――正直、もう限界。
 リゼロッテの手前、膝をつくことだけは避けていたが、本当は倒れてしまいそうなほどに苦しい。
 ここは、カセルの南から帝都へ向かう道の中でも最大の難所だ。本当は山と呼ぶほどの高さはないのだが、平坦なところに突然現れる峠道のため、ここを通る者はよく〝ベルムの山道〟と呼んでいた。
 坂道の傾斜が急なうえに、粘土質の赤茶けた土がむき出しになって、日を遮るものがない。女でなくとも、悲鳴を上げたくなるような難所だった。
 そんな中、ヴァイクが見つけてくれた木陰は風の通りもよく、休むには最高の場所だ。
「はい」
「――ああ、ありがとう」
 リゼロッテが、水の入った袋を差し出した。水牛の皮をなめしてつくったものだ。これなら水漏れしない。旅人の必需品だった。
 革の匂いが鼻につくが、疲れ果てた身には、水は最高の御馳走だった。

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