[つばさ] 最新話を投稿:第七章 胎動 第二節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
いつも大祭の時期ともなると自分自身もこころが浮き立ったものだが、今回ばかりは憂鬱な気分にならざるをえなかった。
それは、揺れつづける馬車のせいばかりではなかった。
「盛り上がりすぎだな」
「珍しいですな、お祭り男のフェリクス様がそんなことをおっしゃるなんて」
「おいおい、オトマルならわかってるはずだと思ったんだが」
「冗談です。確かに、この盛り上がりが裏目に出なければいいのですが」
少し目を細めて帝都の情景を、馬に乗ったオトマルは見つめた。
ノイシュタット侯フェリクスとその一行は、選定会議に参加するべく帝都内に入っていた。宮殿へ通ずる西の〝ジルヴェスター通り(シュトラーセ)〟を、宮廷軍の兵士に先導されて進んでいく。
ノイシュタット侯といえば、今や帝都内でもっとも注目されている存在だ。必然、通りの両脇には大勢の人々がその一行を見に集まっていた。
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