[つばさ] 最新話を投稿:第七章 胎動 第五節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
この部屋から見る景色は、いつも変わらなかった。
もちろん、季節の変化はある。それどころか、近くの森や山をはっきりと見られるから、他のところよりもその移り変わりがよくわかるほどだ。
アーデは、子供の頃からこの部屋――兄の執務室の窓から見る風景が好きだった。
取り立てて面白いところがあるわけでもない。特別美しいわけでもない。それでも、こころに響く何かがここにはあった。
それは、兄との思い出なのかもしれない。
早くに母を亡くし、父も自分が十三になる前に旅立ってしまってからは、兄は唯一の家族であり、こころのよりどころでもあった。
そんな兄とよく一緒にここから外の景色を眺めていたことを、今でもはっきりと憶えている。勝手に父の部屋に入って、二人して怒られたことも。
その兄フェリクスは、すでに城を発(た)っていた。四年に一度の選帝会議に出席するためだ。
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