[つばさ] 最新話を投稿:第一章――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 ふと目を開けると、窓の外が白みはじめていた。食事をとったあと、すぐに寝た気がするから思ったよりも眠れたようだった。
 リゼロッテは少し身を震わせて、赤い翼を体にまとわせた。
 もう春とはいえ、さすがに朝晩はまだ肌寒い。いくら寒気暑気に強い翼人といえど、適度な暖かさが一番に決まっていた。
 外の森は、少し霧が出ているようだった。薄い幕を引いたかのように、遠くの木々がかすんで見える。
「お母さん……」
 小さな声に振り向くと、ベッドの上で寝ているディーターの寝言のようだった。
 ――お母さん、か。
 自分にとってはもう手の届かない存在。もしかしたら、この子にとっても。
 ディーターと自分は同じなのかもしれない。自分だって、寝言で我知らず母の名を呼んでいる気がする。
 目が冴えてきたリゼロッテは椅子から立ち上がって、音を立てないように慎重に扉のほうへ向かった。そして廊下へ出て、螺旋階段を自分でも危なっかしいと思う足取りでゆっくりと降りていった。
 一階の回廊まで来ると、広間のほうから話し声が聞こえてきた。
 扉のところまで行き、一度気持ちを整えてから軽く二度、それを叩いた。人間の家で扉を開けるときは、まず合図にこれをするのだと聞いたことがある。
「いいぞ、入ってきて」
 すぐに返事があった。人懐っこいテオの声だ。

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