[つばさ] 最新話を投稿:第一章――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 森の動物たちが、急に落ち着きをなくしはじめたのはいつの頃からだったろう。
 動揺は徐々に徐々に高まっていき、やがてそれが頂点に達したとき、一気に静けさが戻った。
 だが、それは静かというよりは、不気味なほどの沈黙であった。
 リゼロッテは、この雰囲気をよく知っていた。
 嵐の前の静けさ。
 大騒動が起こる前の、一瞬の静寂。
 部族が壊滅したあの日のことを思い出す。
 女の族長に率いられた戦好きの部族が、こともあろうに集落を直接襲った。なんの準備もしていなかった自分たちはあっという間に狩られ、生き残った者たちも完全に散り散りになってしまった。
 その日、赤き翼のクー族は世界から消えた。
 ――あのときと同じだ。
 あの〝匂い〟が、今まさに漂っている。戦に慣れていない自分にとっては、それだけで胸が締めつけられそうになる。
 このまま森に留まっていたほうがいいのだろうか。
 しかし森は、どの翼人にとっても故郷であり庭でもある。
 ここにいたらかえって見つかってしまうのではないか。
 どこかに逃げたほうがいいのではないか。
 そんな迷いがリゼロッテのこころを支配しかけたとき、とうとう町のほうから地鳴りのような音が響いてきた。

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