[つばさ] 最新話を投稿:第五章 真実 第一節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説

2013 年 3 月 15 日

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 辺りはすっかり暗くなり、どれほどの時間が経ったのか、遠くのほうから梟の鳴く間抜けな声が聞こえてくる。
 ヴァイクたちはあれから、そこを一歩も動くことができなかった。体に力が入らず、考える気力もない。
 それほどまでにリゼロッテを失った悲しみ、そして衝撃は大きかった。
 あの子はただの子供ではなかった。皆のこころの支えだった。
 それはもう、完全に失われてしまった。永遠に帰ってくることはない。その喪失感が、どうしようもなくそれぞれのこころを苛|(さいな)んでいた。
 ――このままではいけない。リゼロッテの分も一生懸命に生きなきゃいけない。
 理性がそう訴えかける。しかし、理性以外のすべてがそれを拒絶していた。
 ヴァイクは、月明かりに半分照らされた自分の手を見つめていた。
 ――この手。この手はいったいなんだろう。
 自分のために動いてきた手。
 多くの命を奪ってきた手。
 そして、ひとりの少女を救えなかった手。
 この手がいろんな非道を行ってきた。兄の生きたままの心臓を掴んだのもこの手だ。
 ヴァイクはたまらず、ぎゅっとそれを握りしめた。長く伸びていた爪が皮膚を突き破り、指の間から黒い血を滴|(したた)らせる。

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