[つばさ 第二部] 第三章 第二節
「憂鬱なことだ」
つぶやいてから、しまった、と思う。たとえ事実そうなのだとしても、口に出しては余計につらくなるではないか。
フェリクスは簡単に身支度を整えながら、父から譲り受けた剣を手に取った。
「文句を言ってば ...
つぶやいてから、しまった、と思う。たとえ事実そうなのだとしても、口に出しては余計につらくなるではないか。
フェリクスは簡単に身支度を整えながら、父から譲り受けた剣を手に取った。
「文句を言ってば ...
[つばさ 第二部] 第三章 人として在ること
開け放たれた窓から、新緑の香りをのせた晩春の風がゆるやかに吹き込んでくる。晴れた日には肌が暑さを感じ、耳は野の生き物たちの息吹をとらえていた。
あれからどれくらいの日数が経ったのだろう。日の高さ、月の形からして、少なくとも一週間 ...
あれからどれくらいの日数が経ったのだろう。日の高さ、月の形からして、少なくとも一週間 ...
[つばさ 第二部] 第二章 第六節
雨は上がりはじめていた。西の空からわずかに光が射し込み、露に濡れた木々をほのかに照らし出している。
ヴァイクは、こういった情景が嫌いではなかった。
雨上がりの空。
夜明け前の雲。
そういった何かが開 ...
ヴァイクは、こういった情景が嫌いではなかった。
雨上がりの空。
夜明け前の雲。
そういった何かが開 ...
[つばさ 第二部] 第二章 第五節
今日も今日とて、ノイシュタットは平和だった。もこもことした雲がぽつりぽつりと浮かぶ青空に、のんきな鳥が数羽舞っている。風もほとんどなく、呆れるほどに穏やかな日常だった。
こんな日は、どうしても見張り役が退屈でしょうがなくなる。こ ...
こんな日は、どうしても見張り役が退屈でしょうがなくなる。こ ...
[つばさ 第二部] 第二章 第四節
雨とは厄介なものだ。
道がぬかるみ、川が増水することで移動が困難になり、やたらと時間がかかってしまう。そうしている間に大事な商機を逃し、あとで大きな後悔を抱え込むことになる。
とはいえ、命あっての物種だ。無理をしても成 ...
道がぬかるみ、川が増水することで移動が困難になり、やたらと時間がかかってしまう。そうしている間に大事な商機を逃し、あとで大きな後悔を抱え込むことになる。
とはいえ、命あっての物種だ。無理をしても成 ...
[つばさ 第二部] 第二章 第三節
雲行きが怪しくなっていた。
空の低いところに厚く雲がたれ込め、太陽の光を深く遮った。
風は湿り気を帯び、鳥たちの姿は上空から消えた。
「これは一雨来るな」
翼人のこういった時の感覚が外れることはない。 ...
空の低いところに厚く雲がたれ込め、太陽の光を深く遮った。
風は湿り気を帯び、鳥たちの姿は上空から消えた。
「これは一雨来るな」
翼人のこういった時の感覚が外れることはない。 ...
[つばさ 第二部] 第二章 第二節
お知らせ
嘆くと同時に机に突っ伏す。そこには、ノイシュタットの各地から送られてきた書状が、文字どおり山積みになっていた。
「例の件が起きてから ...
アットノベルスが復活したらしい……
本文「なんでこんなことになった」嘆くと同時に机に突っ伏す。そこには、ノイシュタットの各地から送られてきた書状が、文字どおり山積みになっていた。
「例の件が起きてから ...
[つばさ 第二部] 第二章 不穏
――あなたはなぜここにいるの?
あのときの声が、今、鮮烈に思い起こされる。
――あなたはなぜ疑問に思わないの?
問いつめるでもなく、ましてや愛撫するでもない言葉の塊。
――あなたはなぜ……生きている ...
あのときの声が、今、鮮烈に思い起こされる。
――あなたはなぜ疑問に思わないの?
問いつめるでもなく、ましてや愛撫するでもない言葉の塊。
――あなたはなぜ……生きている ...
[つばさ 第二部] 第一章 第五節
お知らせ
次々と矢を射かけられ、こぶし大の石まで一緒に ...
現在、またしてもアットノベルスがアクセス不能になっている。
かわりに、ここか「小説家になろう」で読んでほしい。
本文 その翼人の男は対応に苦慮していた。次々と矢を射かけられ、こぶし大の石まで一緒に ...
[つばさ 第二部] 第一章 第四節
夜の森はあまりに静かで、生きとし生けるものすべてを眠りの世界へと誘おうとする。
今日に限って虫たちの声も聞こえない。すべてが深い闇の中に沈んでいるようで、辺りは沈黙の幕に覆われていた。
そうした中で、そっとうごめく者た ...
今日に限って虫たちの声も聞こえない。すべてが深い闇の中に沈んでいるようで、辺りは沈黙の幕に覆われていた。
そうした中で、そっとうごめく者た ...