[つばさ] 最新話を投稿:第四章 さよならの言葉 第三節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

「誰だ、窓を開けっ放しにしたのは」
 文句を言いながらも自分で閉める。小雨が降りはじめ、少し風が吹き込んできた。
 ノイシュタット侯フェリクスは、はた目にも不機嫌なのは明らかだった。よほど悩みがあるのか、頭はくしゃくしゃで目にはうっすらと隈ができ、貴公子と呼ばれた面影はもうない。
「フェリクス様、落ち着いてください。苛立っても状況は悪化するだけで、なんの得もないですぞ」
 と言うオトマルも、実際のところフェリクスと似たり寄ったりの状態だった。
 諸侯からの急使が矢継ぎ早にやってきて、その対応だけでも精一杯だというのに、領内で翼人に襲われたという事実を考慮し、今後の対策まで練らなければならない。
 体が、頭が、いくつあっても足りなかった。
「それにしても、オリオーンの件が噂になるのは早かったな」
「仕方がないのかもしれません。箝口令を徹底させるのが難しかったもので」
 もしかしたらあの攻撃による衝撃は、やられた翼人よりも、人間側のほうが大きかったのかもしれない。
 あれほど短時間のうちに、あれほど圧倒的に、あれほど多くの命が無意味に奪われる光景を見たことのある者はまったくいなかったろう。
 百戦錬磨を自負するオトマルでさえ、しばらく言葉を失い、夜は悪夢にうなされることになった。
 いくら関係者を黙らせようとしても、不安に駆られた兵士たちが今回参戦しなかった他の者たちに話してしまうのだった。

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