つばさ 第二部

 夜の森はあまりに静かで、生きとし生けるものすべてを眠りの世界へと誘おうとする。
 今日に限って虫たちの声も聞こえない。すべてが深い闇の中に沈んでいるようで、辺りは沈黙の幕に覆われていた。
 そうした中で、そっとうごめく者た ...

つばさ 第二部

「あー、もう嫌だ」
 若い男の怠惰な声に、かえって場の空気が険悪なものになる。
 ここローエ侯領の都グリューネキルヒェンにある領主の居城、その中央にある一室では、明白すぎる対立関係が展開されていた。
 片や、やる気の ...

つばさ 第二部

「なんでこんなことになった」
 嘆くと同時に机に突っ伏す。そこには、ノイシュタットの各地から送られてきた書状が、文字どおり山積みになっていた。
「例の件が起きてからまだ間がないですし、そもそも以前から未解決の問題が多かったで ...

つばさ 第二部

「ああっ、私はなんであんなことを!」
 けっして広くはない部屋に、妹姫の慚愧(ざんき)の声がこだまする。
「ああ……私はとんでもないことを……」
「殿下」
「どうしてあんな馬鹿なことを、どうしてよりによってお ...

つばさ 第二部

 トン、トン、トン、と、音がする。
 小刻みに小気味よくつづくそれは、判然としない意識の中にゆるやかに、そして静かに入り込んでくる。
 甘いような匂いが鼻に届き、鼻腔の奥をわずかにくすぐる。重い瞼(まぶた)が刺激を受けて持ち ...

つばさ 第二部

ノイシュタットは活気に満ち満ちていた。
 つい先日、あれほどの大混乱が帝都で起きたというのに、何事もなかったように――否、以前にも増してすべてが潤っていた。
 戦による〝特需〟というものだ。今、帝都では完全に物資が不足してい ...

つばさ

最新話を『小説家になろう』に投稿。
(アットノベルスにも)

今回でようやく完結。読んでくくださった方、本当にありがとう。

しばらく筆を置きたいと思うが、またいつかこうした小説を書いてみたいと考えている。 ...

つばさ

最新話を『小説家になろう』に投稿。
(アットノベルスにも)

(冒頭部分)

 犠牲者は二十三名。
 今回の帝都騒乱の全体から見れば微々たるものでしかないのかもしれないが、〝新部族〟としてはあまりに ...

つばさ

最新話を『小説家になろう』に投稿。
(アットノベルスにも)

(冒頭部分)

「あーあ、ヴァイクの奴も行っちゃったか」
 ナーゲルは木の上で思いきり伸びをしながら、手にある赤黒い布きれを握り直した。 ...

つばさ

最新話を『小説家になろう』に投稿。
(アットノベルスにも)

(冒頭部分)

 この宮殿から見える帝都の景色は、わずかな時間で一変してしまった。
 家屋の多くが潰れ、衛兵の詰め所など帝国の各施設も壊 ...