[つばさ] 最新話を投稿:第六章 雌伏のとき 第二節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
小さな泉から水があふれ、小川となって静かに流れていく。その近くに立つ大樹には小鳥たちが集まり、ささやかな演奏会を開いていた。
ここは城の地階、その奥まったところにある一室だ。
城の中とは思えない穏やかさと静けさに包まれているそこは、ノイシュタット侯フェリクスの副官であるオトマルにあてがわれた一室であった。
そこへ、ずかずかと近づいていく小柄な姿があった。
妹姫たるアーデルハイトだ。
どこか不機嫌そうに、一緒についてくる者たちを時おり振り返っている。
そのアーデが苛立ちを抑えつつ、扉のそばに立つ従者にみずからの訪問を告げた。
「は、はい。少々お待ちください」
姫がここに来ることをまったく想像していなかったのか、男はあわてた様子で部屋の中へと入っていった。
程なくして、再び扉が開け放たれた。
「まあまあ、アーデ様がこんなところにおいでになるなんて、どうしたものかしら」
そこから現れたのは、恰幅のいい中年の女性であった。三角巾をかぶり、エプロンを付けたまま笑顔でアーデをぎゅっと抱きしめた。
それまで不機嫌だったアーデも、それであっという間に笑顔になった。その女性の豊かな胸に顔をうずめて、しっかりと抱き返した。
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