[つばさ] 最新話を投稿:第一章――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 すべてが茜色に染まっていく。
 結局、岩場で亡くなっていた男の埋葬が終わったのは、日が完全に傾いてからのことだった。
 翼人の彼と別れたあと、テオの馬車で遺体を運ぶわけにもいかず、いったん神殿に戻ってから棺をここまで運んだ。
 それに亡骸を入れてからまた神殿に戻り、やっとのことで共同墓地に葬ることができたのだった。しかもその間、衛兵による検分もあったので余計に時間がかかってしまった。
 彼らも心臓がないことと、切り口があまりに見事なことに驚いていた。いろいろと調べていたようだが、残念ながら男の身元もまったくわからず、犯人やその目的のめどがつくはずもなかった。
「ふう……」
 右腕に巻いておいた大事なスカーフを縛り直しながら、周囲を振り仰いだ。
 まだ数人が作業をつづけている。神殿の仲間たちに手伝ってもらったものの、ただでさえ気が滅入る作業だ。気がつかないうちに、体だけでなくこころまで重たくなっていた。
「ベアトリーチェ、ご苦労さま」
 額にうっすらと浮かんだ汗を拭いながら振り返ると、そこには白いケープを羽織った、三十路|(みそじ)にかかろうかという女性が立っていた。
「アリーセ様」
 彼女がこの神殿の長であり、子供の頃からここにいる自分のような者にとっては母親代わりの存在でもあるアリーセであった。
 誰よりも優しくあたたかく、そしてときには厳しいけれど、いつもどこかで支えてくれているまさしく聖母のような人だ。
「大変だったわね、買い出しに行ったはずがこんなことになるなんて」
「いえ、これも神官の務めですから」
「ふふ、相変わらず生真面目ね。どこかで息抜きしなきゃ駄目よ」
「はい、お母様」
 自分の身を心配してくれることは純粋にうれしい。アリーセの笑顔にこちらも笑顔で答えた。
「ところで」
 と、急に真剣な顔になって聞いてくる。
「あの場所で他に何かあったの? 奉仕の最中にも、考えごとをしているみたいだったけれど」
 ぎくり、とする。やはり鋭い。
 この人に隠しごとはできない。すべて正直に話すことにした。
「実は、あの場所で翼人の男の方と会ったのです」
「翼人、と?」
「え、ええ」
 アリーセの表情がさっと変わった。目に映る真剣味の色合いがいっそう濃くなり、ベアトリーチェは少し気圧された。

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