[つばさ] 最新話を投稿:第三章 再会 第八節――ファンタジーのオリジナル長編小説

最新話を『小説家になろう』に投稿。

(冒頭部分)

 暗夜の中、アーデはすっかりあわてていた。それはもう、彼女を知る者からすれば驚愕するほどに。
「は、早くお兄様に報告を! ユーグ! ユーグ! 何をしているの!」
「落ち着いてください、姫」
 ここまで取り乱すアーデも珍しい。とにかく、尋常ではないほどに冷静さを失っていた。
「ここまで来ると、哀れというより無惨ね」
「うるさいわね! 大変なんだからしょうがないじゃない」
 窓のほうから聞こえてきた声に、アーデがあからさまにくってかかった。窓際に腰かけているのか、薄暗がりの中、女性のなまめかしい足だけが明かりに照らされて見える。
 夜もすっかり更けていた。騎士団の一部が出払っているせいか城内はいつもよりも静かで、どこか不気味な雰囲気さえあった。
 フェリクスが出立してから、すでに三日が経っている。公式の使者が城に前線の報告をするよりも早く、ヴァレリアがすでにフィズベクの様子を見て帰ってきたのだった。
「〝お兄様〟とやらのこととなると、あんたでもそこまで取り乱すのね」
「悪い!? だって、たったひとりの家族なんだもん!」
「別に悪かないわ。家族を大切に思う気持ちはわかるし。たとえ、どんなに出来の悪い弟でもね」
「弟じゃなくて兄! それに、お兄様は出来が悪くなんかないわ」
 そういう意味ではなかったのだがいちいち訂正するのも阿呆らしく、ヴァレリアは何も言わずに黙っておいた。

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