つばさ 第二部

 晩春の朝霧は深く、陽光の遮られた森の奥まではとても見通せない。しかし、野生の生命の目覚めは早く、活力に満ちた嘶(いなな)きを未だ暗闇に包まれた森陰に響かせる。
 そんな儚くも力強い息吹を感じさせる空気の中に、ややもすると不可思議な ...

つばさ 第二部

「憂鬱なことだ」
 つぶやいてから、しまった、と思う。たとえ事実そうなのだとしても、口に出しては余計につらくなるではないか。
 フェリクスは簡単に身支度を整えながら、父から譲り受けた剣を手に取った。
「文句を言ってば ...

つばさ 第二部

 開け放たれた窓から、新緑の香りをのせた晩春の風がゆるやかに吹き込んでくる。晴れた日には肌が暑さを感じ、耳は野の生き物たちの息吹をとらえていた。
 あれからどれくらいの日数が経ったのだろう。日の高さ、月の形からして、少なくとも一週間 ...

つばさ 第二部

 雨は上がりはじめていた。西の空からわずかに光が射し込み、露に濡れた木々をほのかに照らし出している。
 ヴァイクは、こういった情景が嫌いではなかった。
 雨上がりの空。
 夜明け前の雲。
 そういった何かが開 ...

つばさ 第二部

 今日も今日とて、ノイシュタットは平和だった。もこもことした雲がぽつりぽつりと浮かぶ青空に、のんきな鳥が数羽舞っている。風もほとんどなく、呆れるほどに穏やかな日常だった。
 こんな日は、どうしても見張り役が退屈でしょうがなくなる。こ ...

つばさ 第二部

 雨とは厄介なものだ。
 道がぬかるみ、川が増水することで移動が困難になり、やたらと時間がかかってしまう。そうしている間に大事な商機を逃し、あとで大きな後悔を抱え込むことになる。
 とはいえ、命あっての物種だ。無理をしても成 ...

つばさ 第二部

 雲行きが怪しくなっていた。
 空の低いところに厚く雲がたれ込め、太陽の光を深く遮った。
 風は湿り気を帯び、鳥たちの姿は上空から消えた。
「これは一雨来るな」
 翼人のこういった時の感覚が外れることはない。 ...

つばさ 第二部

お知らせ

アットノベルスが復活したらしい……

本文「なんでこんなことになった」
 嘆くと同時に机に突っ伏す。そこには、ノイシュタットの各地から送られてきた書状が、文字どおり山積みになっていた。
「例の件が起きてから ...

つばさ 第二部

 ――あなたはなぜここにいるの?
 あのときの声が、今、鮮烈に思い起こされる。
 ――あなたはなぜ疑問に思わないの?
 問いつめるでもなく、ましてや愛撫するでもない言葉の塊。
 ――あなたはなぜ……生きている ...

つばさ 第二部

お知らせ

現在、またしてもアットノベルスがアクセス不能になっている。

かわりに、ここか「小説家になろう」で読んでほしい。

本文 その翼人の男は対応に苦慮していた。
 次々と矢を射かけられ、こぶし大の石まで一緒に ...