[牙] Chapter 4 episode: Slender Fencer 1――オリジナル小説(ライトノベル)の連載:最新話
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(冒頭部分)
「ここか」
長い旅路の末にようやくたどり着いた約束の地。
蓮は額の汗を無雑作にぬぐって、両開きの戸を見つめた。
なんだかんだで、恐ろしく時間がかかってしまった。もう次の授業が始まっている頃合いだろうが、そんなこと構いやしなかった。
気分転換に少し遠回りしただけ。そう、そういうことだ。
痛々しいほどに現実を否定する蓮は、少し呼吸を整えてから戸に手をかけた。
――うん?
ほんのわずかな違和感。
――よく考えたら、なぜ鍵が開いている?
少しだけ戸を引いてみると、難なく動いた。鍵がかかっていた形跡はまるでない。
それだけではなかった。内部から明らかに気配を感じる。
「…………」
わずかに空いた隙間から、中をうかがう。
初め、何もいないかのように思われた。しかし、しばらくじっと様子を見ていると、倉庫の隅に影を見つけた。
――女、か。
シルエットからして女性のようだ。暗がりの中、ひっきりなしに箱やら棚やらをあさっている。
相手も見づらいのか、左の手を掲げ、その先に術で光を灯した。
浮かび上がったその姿を見て、違和感はなお増した。
――なぜだ。
女は、学校の制服をまとった少女だった。しかし、それはここ白鳳高校の物とは異なり、オーソドックスな黒のセーラー服であった。
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