[つばさ] 最新話を投稿:第六章 雌伏のとき 第三節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
夜明け前の森の空気はどうしてこう憂鬱なのだろう。
昇らない太陽、差さない光。
すべてがどこかぼやけていて、何もかもが重くたれ込めている。
――なぜ、ここにいるのだろう。
と、素直な疑問がわき起こってくる。
――ああ、そうだ。ベアトリーチェたちと別れたんだった。
今頃、神殿で休んでいるはずだ。どう考えても、自分たちは住む世界が違う。
周りからは何も音がしない。風もないせいで、驚くほどの静寂に辺りは包まれていた。
――こんなときに限って静かになりやがる。
今は、少しだけ騒がしくしてほしかった。こんなに何も音がしないと、自分のこころの声がはっきりと聞こえてきてしまう。
耳を塞いでも、大声で叫んでも聞こえてくる内面のこだま。それを受け止められるほどには、自分のこころは準備ができていなかった。
――結局、あの女の言っていることはすべて正しかった。
偉そうなことを遠慮会釈なくまっすぐにぶつけてきた女。
あれだけ強く反発したのは、全部図星だったからだ。
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