[つばさ] 最新話を投稿:第九章 始まりの終わり 第三節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
森の中というのは、いつも優しいものだ。
緑の木々に囲まれ、下は落ち葉と草の絨毯になっている。天を覆う枝葉が余計な光を遮ってくれて涼しかった。
鳥のさえずりや獣たちの鳴き声は、自然の音楽だ。ずっと聞いていても、けっして飽きることがない。
そこを行き過ぎる風は、ただひたすらに心地よかった。清浄で清涼でまったく癖がない。これこそが本物の風だと断言できる。
――ずっとここにいたい、と思う。
森の中にいるだけで、いろいろな優しさを感じることができる。
ここは、あまりに居心地がよかった。今直面している現実がひどく厳しいものであるだけに、どうしても甘えてしまいたくなった。
――それが駄目なんだけどな。
そのことは、自分自身が一番よくわかっている。だが、疲れ果てたときに少し休むことくらいは許されるはずだ。これがなくては、もう体力も気力も持ちそうになかった。
ヴァイクは目を閉じて、木の幹に背を預けた。
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