[つばさ] 最新話を投稿:第六章 雌伏のとき 第五節――無料で読めるファンタジーのオリジナル長編小説
(冒頭部分)
もう二度と来るまいと思っていたこの場所。ひょんなことからたまたまここの上空を通りかかり、気がついたら降りてしまっていた。
――なぜ、自分はここにいるのだろう。
後悔なのか、未練なのか。自分でもよくわからなかったが、今こうしてここにいるということは、何か引かれるものがあったのだろう。
確かに好きな場所ではあった。見晴らしがよく、適度に風が吹く気持ちのいいところ。
すぐ近くが崖になっているから、彼女はいつも怖いと言っていた。そのたびに、わざと落としてやろうとしたものだった。
――俺も、あの頃のことを懐かしいと思えるようになったのか。
彼女が離れていったあの日からずっと、彼女自身のことも、その思い出もけっして考えないようにしてきた。
耐えられなかった。かつてを思い起こすたびに、憂いと怒りとあの失望が込み上げてくる。
――だが、俺は変わった。
こころの傷は時間が癒してくれるというのは本当だった。
いつの間にか、それらをひっくるめて〝過去のこと〟と思うようになった自分がいた。彼女と完全に別れ、荒れていたあの頃の自分からすれば信じられないことだった。
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