国債とは:初心者向けにわかりやすく解説[まとめ]日本国債 日銀 長期金利 マイナス金利など
今回から、経済用語などについて初心者向けにわかりやすく説明していく。
基本的な方針として、初心者でも理解しやすいようにできるだけ専門用語は使わず、簡単な言葉で解説する。
今回は国債に関することについて。
Q. 国債とは?:概要
国が発行する一種の借用書のことです。
国家による債券なので、略して国債といいます。
Q. なぜ国債は必要?
個人や企業などと同様に、国の機関=政府も活動するための資金が必要です。
本来、そのすべてを税収など国家の収入でまかなうべきですが、たいていの場合、特に短期的には不況などによってどうしても資金が足らなくなることもあるので、基本的に金融機関や投資家から資金を借りることになります。
その際に国債を発行して、それを買い取ってもらうわけです。
ちなみに、主要国で政府の収入と支出のバランス、つまり財政収支が黒字になったことがあるのは、最近ではドイツだけです。
しかし、そのドイツですら、安定した収入源=財源のために国債を現在でも発行しつづけています。
Q. 国債って安全なの?
国が後ろ盾となっているわけですから、特定の国債の信用力はそのまま、その国の信用力を表します。
新興国・途上国で政治も経済も不安定であるようなら、当然その国の国債も信頼性は低いといえます。
反対に先進国ならば、基本的に安全と考えられます。
ただし、この辺の判断は専門家でも難しい部分があるので、各国の国債の価値をランキングする専門の「格付け会社」が存在します。
しかし、そもそも各組織の格付けの基準がおかしいという批判も根強く存在します。
Q. 国債が破綻(債務不履行)になることってあるの?
めったにないことですが、あります。
要するに、国の財政が破綻してしまった場合です。
この際、その国はみずからデフォルト=債務不履行となることを宣言します。
しかし個人による破産の場合とは異なり、自己破産のような制度はなく、債務不履行を宣言したからといって借金がすべて帳消しになるわけではありません。
ほとんどのケースでは、債権者との話し合いで決めていくことになりますが、たいていの場合、他の国から財政支援を受け、さらに借金の返済期限を長期に伸ばしてもらうことになります。
Q. 財政が破綻すると何が起こるの?
まず、自国通貨が暴落します。日本でいえば「円」です。
あとでくわしく見ますが、国債はその国の信用力と経済状況を示す重要なバロメーターです。
それが無価値に等しくなってしまうということは、その国の信用が失墜するということに他なりません。
ということは、自国通貨の信用も失う――極端な自国通貨安になるということなのです。
その後、通貨安になるということは、今度は輸出しやすくなるので、輸出産業が大きければその国の経済は急速に回復し、通貨・国債の信用も取り戻すことができる可能性もあります。
ただし、それは「うまくいけば」の話。国の財政だけでなく経済そのものの立て直しがうまくいかない場合もよくあることです。
Q. 日本の国債は大丈夫なの?
現状「大丈夫」といえます。
国内経済が安定し、以前と比べて減ったとはいえ国の貿易力を示す経常収支も基本的に黒字です。
さらに、国として海外の資産(債権)を大量に保有し、個人も巨額の資産を全体として持っています。
また、国内での国債保有の割合が高く、国内で清算できる可能性が高いためです。
ただし、以前に比べて海外における日本国債の保有残高は確実に増しており、さらに肥大化する公的債務の問題を考えると、けっして楽観はできません。
借金は返さないかぎり、どこまでもいっても借金です。
そして、借金には利子が付きます。つまり、持てば持つほど債務は膨れ上がっていくのです。
その現実が覆されることはありません。
Q. どんな国債があるの?:国債の種類
支払い(国による返済)までの期限やその方法からさまざまな種類のものがあります。
非常に大まかにいうと、短期国債と長期国債の二種類です。
その名のとおり、短期国債は支払いまでの期間=償還期間がおおよそ1年以内の短いものをいい、長期国債は約10年で、こちらが主流です。
国債の経済に与える影響を考える場合、この長短の国債が重要になってきます(後述)。
Q. 国債って売れるの?
できます。すでに国によって発行された国債を売ることも買うことも可能です。
つまり、国債にも株式市場や資源関連のマーケットのように「流通市場」が存在するということです。
Q. 国債の価格と利子の関係は?
国債の価格=国が借りたい金額については、政府が発行する場合(発行市場)と、それが一種の金融商品として市場で取引される、つまり流通する場合(流通市場)とで大きく異なります。
また、国債における利子の支払い=利払いは一定期間ごとで、通常半年または1年です。
発行市場
国が発行する場合、基本的には利子は一定で、経済状況などによって変動することはありません。
ただし、国(厳密には財務省)が発行する国債を買うことができるのは、一部の認可された金融機関や証券会社のみです。
その購入方法は一種のオークション方式になっており、基本的に100円を最低価格とし、1億円単位で、最も高い値段をつけた買い手から順に希望する量を丸ごと購入する(=応札する)形になっています。
満期時の償還額は、通常100円です。
【例】
国の側: 100円当たり、1年ごとの利子1%(1円) 償還期間:10年 -> 満期時の償還金額:100円 + 10年分の利払い10円 -> 受取総額110円
上記のとおり基本的には国債発行時の利子=金利は一定であるため、金融機関の側がなんらかの理由により、実際の償還金額に近いような高額で買い付けてしまうと、たいして儲からないという事態に陥ります。
買い手 A: 購入額105円の場合 -> 110円(実際に受け取れる額)- 105円(購入額)= 5円(10年間のもうけ) B: 購入額108円の場合 -> 110円(実際に受け取れる額)- 108円(購入額)= 2円(10年間のもうけ)
流通市場
こちらが、一般の投資家でも参加できる国債の市場です。
この流通市場では、投資家側の思惑や世の中の経済状況によって、国債の額は常に変動することになります。
外貨建ての国債も存在
発行市場では、国債はその国の通貨を基準に発行されますが、流通市場では海外の通貨を基準にする=外貨建ての国債も取引されています。
これは、購入や利子の受け取りの際に為替取引をからめたものです。
日本国債でいえば、本来、円建てのものをドル建てでやり取りするということです。
そのため、同じ国債であっても、為替の状況に応じて自国通貨建てと外貨建てでは実質的な価値が変わってくることもあります。
ただし本稿では、この辺のことは考慮に入れず、基本的に自国通貨建ての場合のみ想定していきます。
問題点
上記のとおり、国債が発行される際、経済情勢、特に債券市場の動向を見て、国がその利率を決めます。
それはすなわち、発行されるたびにその国債の利率は異なるということです。
例: ~年1月発行の長期国債 1% ~年9月発行の長期国債 2%
つまり、これらを売買する流通市場では、常に利率など条件の異なる国債が混在した状態で取引されていることになります。
これでは、売買する側=投資家側は何を買うべきか非常にわかりづらく、またその取引を仲介する金融機関にとっても管理しづらく、誰にとってもメリットがありません。
解決法:『標準物』の利用
そこで現在の流通市場では、わかりやすくするために共通した架空の国債を設定し、それをやり取りすることによって市場を成立させています。
この架空の国債のことを「標準物」と呼びます。
実体のない債権=現物(げんぶつ)ではないものを取引するのですから、これは先物取引のひとつとなります。
価格の変動
流通市場はいわば民間の市場ですので、当然ながら取り扱われている商品=国債の価格は常に変動します。
価格と利子の関係
国債の取引がわかりづらくなっている最大の原因は、ほとんどの場合、上記の発行市場と流通市場が混同されているためです。
そこで今一度、整理してみましょう。
【国債の価格】 発行市場:入札者=金融機関が最終的に決定 流通市場:入札者=投資家 が最終的に決定 【国債の利率】 発行市場:発行者=国(政府)が最終的に決定 流通市場:発行者=取引所 が標準物の利率を決定
発行市場であれ流通市場であれ、一度決められた利率はその後変化しません。
そもそも、利率が国債ごとにバラバラになるのが厄介だから標準物が生み出されたのです。
では、それぞれの市場における価格の変動にはどのような意味があるのでしょうか。
流通市場
まず、こちらから考える必要があります。
単純に、国債(標準物)の人気が上がれば価格は上昇し、反対なら下落します。
一方、標準物の利率は金融商品によって異なるものの、償還期限(満期)に応じておおよそ3%か6%であることが大半です。
発行市場
ポイントになるのはこちらです。
発行市場における価格は一定(100円)で、その利率は発行時に固定されていることはすでに触れました。
では、その利率はどうやって決められているのでしょうか。
実は、発行市場は完全に独立したものではなく、流通市場の動向を見ながら国(財務省)が発行時の利率を決めているのです。
ここで、発行者サイド=国の側に立って考えてみましょう。
【標準物の価格が上がった場合】
流通市場で国債(標準物)の価格が上がった、つまりその価値が上がった場合、その国債は人気があるということですから、新規発行時に利率(購入者にとっての儲けの割合)を低く設定しても売れる可能性が高いということです。
それは別の面から見れば、国の側が損をする割合を低くできるということです。
人気があるのですから当然ですよね。
【標準物の価格が下がった場合】
逆に、標準物の価格が下がった、つまりその国の国債の人気が落ちた場合は、新規発行時に利率を上げて購入者にとって魅力的にしなければなかなか売れなくなります。
不人気商品の悲しい現実です。
この場合、国にとっての損は増え、不人気が極まれば場合によっては国債が売れなくなるため、国家財政の危機、すなわち国にとっての大きなリスクになりかねません。
標準物以外では?
ここまでは、あえて先物=実体のない架空の債権である標準物を用いて説明してきました。
理由は単純、そもそも標準物が生まれた理由と同じで、そのほうがわかりやすいからです。
では、現実の国債=現物債の場合を考えるとどうなるのでしょうか。
まず、個別の国債の利率は発行時に固定されているとすでに説明しましたが、それが流通市場に流れたとき、当然ながら人気=需要に応じて価格が変動します。
また、各国債の利率は固定されていても、発行時期によって利率が異なります。
つまり債権ごとに、満期時に最終的な儲け変動してしまうということです。
例: 発行市場:価格(額面)100円 満期まで3年 利率1%の国債 最終的な受取額:103円(額面100円+利子1円) 儲け:3円(103円-100円) 流通市場:価格(額面)102円で購入 最終的な受取額:103円(額面100円+利子1円) 儲け:1円(103円-102円)
また流通市場では、購入時の価格だけでなく、満期までの残り期間が異なる場合もあります。
例: 流通市場:価格(額面)100円 利率1%の国債 満期まで3年の国債:儲け 3円 満期まで1年の国債:儲け 1円
流通市場における価格と満期までの期間の差が両方からんでくると、誰にとってもややこしいことになります。
特に満期までの期間に差があると、投資期間1年当たりに得られる実質的な儲けに差が出てきます。
国債A: 発行市場:価格(額面)100円 利率1% 満期まで5年 流通市場:価格(額面)95円 満期まで3年 最終的な受取額 :103円 (価格100円+利子1円×3年) 最終的な儲け :8円 (103円-95円) 1年当たりの儲け:2.66円(8円÷3年) 国債B: 発行市場:価格(額面)100円 利率2% 満期まで2年 流通市場:価格(額面)98円 満期まで2年 最終的な受取額 :104円 (価格100円+利子2円×2年) 最終的な儲け :6円 (104円-98円) 1年当たりの儲け:3円 (6円÷2年)
発行時期や条件が異なる国債をいちいち計算しながら細かく比較しなければならないということです。
しかも、ここでは単純化するために国債を満期まで持つ設定にしていますが、現実には途中で売り払う場合ももちろんあります。
買い替えることもできるということです。
流通市場では売却時期によってマーケットでの価格が異なるため、実際にはその際の損益も加味しなければなりません。
発行市場:価格(額面)100円 利率1% 満期まで5年 流通市場: 購入時:98円 残り3年 売却時:101円 残り1年 → 売却による損益:3円 最終的な損益:5円(3円+保有時の利子1円×保有期間2年) 1年当たり2.5円の儲け
国債もひとつの債権である以上、基本的な仕組みは非常に単純なのですが、さまざまな要素がからんでくるために、かえって複雑でわかりづらいものになってしまっています。
だからこそ標準物が生み出され、流通市場ではそれが主流になっているのです。
利回りとは
経済ニュースなどでよく聞く「利回り」とは、まさにこの1年当たりの儲け(損益)のことをいっているのです(年利回り)。
また、日本の国債は100円単位、つまり百分率と合うため、利回りを%で表現することも多いです。
2.5円=2.5%の利回り
ここまでは損益を「儲け」と表現してきましたが、もちろん損をする場合もあります。その際、利回りは当然ながらマイナスとなります。
上記ではあえて回りくどい計算をしていますが、実際には以下の計算式で単純に求めることもできます。
(利子による儲け+売却や満期の際の損益)÷保有年数
厳密にはこれらに加えて、税金分などを費用として計上する必要があります。
金利が下がれば価格が上がる?
よくニュースなどで「金利が下がれば価格が上がり、金利が上がれば価格が下がる」といわれます。
これはどういうことでしょうか。
流通市場において、国債の価格が上がった場合と下がった場合とに分けて考えてみましょう。
【流通市場で国債の価格が上がった場合】
*国の側から見た場合*
すでに少し触れたとおり、発行時の国債の利率=金利は流通市場の動向を見て政府が決定します。
マーケットの論理として、流通市場で価格が上がっているのなら、それはその金融商品の人気が上がっているということなので、元々の国債を発行する側=政府は次に発行する国債の魅力を少し下げたとしても売れるだろうと判断できます。
多少、投資家のもうけ=利子分が減っても彼らは買うだろう、というわけです。
要するに、発行時の利率を下げて、国にとっての損を減らすことができます。
*投資家の側から見た場合*
しかしそれは、投資家の側から見たら、現在流通している国債の魅力が増すことになります。
なぜなら、新規発行の国債そのものの魅力(実質的な価値)が低下しているのだから、現在保有している流通市場の国債を新発国債に買い替えることが難しく、流通市場の国債を扱いつづけるしかないからです。
それはすなわち、流通市場の国債の需要が高まる=その価格が上がることを意味します。
投資家にとっては相対的に流通市場の国債のほうがより魅力的に映るわけです。
【流通市場で国債の価格が下がった場合】
まったく逆のことが起きます。
*国の側から見た場合*
流通市場で価格が下がっているのなら、それはその金融商品の人気が下がっているということなので、元々の国債を発行する側=政府は次に発行する国債の魅力を上げないと売れないだろうと判断するしかありません。
国債全体の魅力が下がっているのだから、少なくとも新規に発行するものは不人気を覆すだけの魅力がないと注目してもらえない、というわけです。
人気・信用の低い存在の悲しさです。
要するに新発国債を売るためには、発行時の利率を上げて、国にとっての損を増やしてでも対応するしかありません。
*投資家の側から見た場合*
しかしそれは、投資家の側から見たら、その新規に発行される国債の魅力が上がることになります。
なぜなら、新規発行の国債の利率が上がってその魅力(実質的な価値)が増加しているのだから、現在保有している流通市場の国債を新発国債に買い替えたいというマインドが流通市場全体で強くなります。
それはすなわち、相対的に見て、投資家にとって流通市場の国債の需要が低くなる=その価格が下がることを意味します。
【ポイント】
要は「何の」金利が変動し、「何の」価格が変動するかです。
「金利が下がれば価格が上がり、金利が上がれば価格が下がる」という言葉を厳密に言えば次のようになります。
「発行市場の国債の」金利が下がれば「流通市場の国債の」価格が上がり、「発行市場の国債の」金利が上がれば「流通市場の国債の」価格が下がる
異なる二つの市場の、異なる二つの要素をごっちゃにして、あまりにも言葉足らずで語ったために、初心者にとっては非常にわかりづらい説明になり果ててしまったのです。
ですが上記のとおり、仕組みとしては非常に単純です。本来は、ごく当たり前のことを言っているにすぎません。
【国債の市場もひとつのサイクルの内側にある】
実際には、流通市場の国債の価格が変動すると、国が発行市場で新規発行の国債の利率を変動させ、またその様子を見た流通市場の側で変化が起きる……
――といった感じで、一種のサイクルとして常に相互に影響し合うものです。
あくまで国債を発行しはじめるのは国のため、玉子が先かニワトリが先かといったらニワトリが先なのですが、流通市場がすでに存在している以上、その議論は意味を成しません。
要は、互いに強く結び付いているということを把握しておくことが重要なのです。
まとめ
実は、これらは国債に限った話ではなく、債券全般にいえることです。
国債がよく話題に上るのは、それが国の発行した重要なもので、その国の経済状況を図るひとつの基準となるためです。
Q. 国債の利率が重要な経済指標になるのはなぜ?
最も端的に言えば、国債は国がその価値を保証する信頼性の高い債権で、市場での人気も高いためです。
ただ、これについてくわしく知るにはまず、国債などの債権には基本的に、満期までの期間が短期のもの(短期債)と長期のもの(長期債)の二種類があり、中でも重要なのがその利率、厳密には利回り(金利)についてである、ということを把握する必要があります。
ただし、難しく考える必要はありません。
債権の金利といっても、一般的にはほとんどの場合、国債の金利についてのことであり、経済指標としては長期国債が注目されます。
なぜ、長期国債が重要なのでしょうか。
それを考えるには、短期債の特徴を知る必要があります。
短期債
基本的に、満期までの期間が1年以内の債権などのことで、この場合、国債に限りません。
国や中央銀行は、短期債の「実質的な利率」=金利=利回りをターゲットにして、民間への資金流入の量を調節することによって民間市場に介入しようとします。
このターゲット、つまり基準になる金利のことを「政策金利」と呼びます。
補足
日本の場合、特に無担保コールレート翌日物の金利を基準にします。
コールレートとは民間の銀行同士が資金を融通し合う場合の金利のことで、翌日物とは返済期限が借り入れの翌日に設定されたものをいいます。
それが担保なしで借りられるものが、無担保コールレート翌日物です。
長期国債
それに対し、長期国債は公的部門の思惑に左右されにくいものです。
なぜなら、満期までの期間が6年以上と文字どおり長いため、特定の存在に短期的な思惑で操作される可能性が低く、翻って民間市場の動向・将来予測、すなわち経済の実態が反映されやすいということです。
少なくとも、短期債に比べれば特定部門の影響を受けにくいのです。
そのため、長期債、中でも長期国債の利回り(金利)が現在の経済を推し量る重要な指標となっているのです。
Q. 具体的には長期国債の何が注目されるの?
やはり金利(実質的な利率=利回り)です。
長期国債の金利のため、これを「長期金利」と呼びます。
先に述べたとおり、本来、長期金利という言葉は満期までの期間が長期の債権全般を指しますが、一般に長期金利と言った場合、そのほとんどが長期国債、中でも10年ものの金利のことです。
ただし、ここでいう長期国債とは発行市場のものについてです。
言い換えれば、政府が新規に発行する(=新発の)長期国債の利率が注目されているということになります。
Q. なんで新発の長期国債の利率が大事なの?
これを理解するには、発行市場における長期国債の利率が決定するプロセスをまず知る必要があります。
新発国債の利率は、流通市場の動向を見て国が決定することにはすでに触れました。
これはつまり、最終的に決定するのは国=政府であっても、常に投資家の思惑が強く影響しているということです。
別の面から見ると、国はいつも投資家の顔色をうかがっているともいえます。
具体的には投資家が考える市場や経済全体の予測が、新規に発行される長期国債の利率をも動かしているのです。
Q. 長期国債の発行に際して投資家が実際にすることは何?
発行市場における入札時の価格を決めることです。
すでに見たように、発行市場で国から新発国債を買えるのは認可された金融機関のみですので、ここでいう投資家とはその金融機関のことです。
しかし、金融機関も投資家の動向を見ながら意思決定するため、結局は同じことです。
そして、新規に発行される国債の利率はその種類ごとに一定ですから、長期金利とは厳密には100円当たりに換算した「実質的な利率」=利回りのことです。
言い換えれば、投資家が購入額を決めるということは、その国債の利回りを決めることでもあるのです。
Q. じゃあ、短期金利では国や中央銀行は何を考えるの?
基本的に民間の市場(経済状況)は、全体における資金が多ければ活性化し、少なければ沈静化します。
あなたが起業家である場合を考えてみてください。
市場に全体として資金が豊富にあるならば、あなたは金融機関から融資を受けやすくなり、あなたが販売する製品やサービスが購入されやすくなります。
もちろん、資金が不足すれば逆になります。
このように、民間への資金の流れ=流入量を調整することで、国や中央銀行は国内の経済を健全な状態に保とうとします。
景気が冷え込んで経済活動が不活発ならば、さらなる不況・恐慌を防ぐために資金の流入量を増やして経済を刺激します。
反対に景気が盛り上がって経済活動が過熱気味ならば、バブルを防ぐために資金の流入量を減らして経済を鎮静化させます。
このために、国や中央銀行はあえて市場に介入し、コントロールしようとするわけです。
Q. 国や中央銀行は具体的には何をやるの?
上記のとおり、それら公的機関にできることは、基本的には民間市場へ流れる資金の量を調整することだけです。
国(政府)には公共投資などを増減させることで、直接的に民間へ資金を投下する量を調整できますが、中央銀行に与えられた手段は限られています。
その手段こそが、民間銀行が持つ国債を買うことです。
その結果、民間銀行が持つ資金の量が増え、それは実質的に民間市場における資金の量が増えることにつながるのです。
要するに中央銀行は、民間銀行を通じて市場へ流れる資金を調整しようとするということになります。
Q. 結局、投資家が具体的に考えることって何?
短期金利
まずは、短期金利を見ます。
国や中央銀行の影響を受けやすいということは、裏を返せばそれらの現在の思惑や今後の動向を読みやすいということでもあります。
短期債の金利が上がっているということは、国や中央銀行が市場への資金の流入量を減らしている=市場で資金が不足しがち=短期債の価値が高まっているということであり、結論としては「現在と近い将来は好景気だ」と判断できるということです。
もちろん、金利が下がっている場合は逆のことがいえます。
短期金利を見れば、少なくとも国や中央銀行が現在と近い将来の景気をどう判断しているかおおよそわかるため、次に述べる他の要素を考慮に入れながら短期金利も見るのです。
インフレの度合い
長期債は、なぜリスクが高いのでしょうか。
すぐに換金できない、最終的な損益が確定するまでに時間がかかるなどいくつか理由があるのですが、そのひとつが物価変動の影響を受けやすいことです。
高インフレの場合
物価が上昇するということは、同じ100円であってもその金銭(通貨)の価値が下がってしまうということです。
同じ商品の価格が上がるということは、今まで100円で買えていた物が買えなくなることを意味します。
同じ100円のはずが、現在では以前の100円よりお金自体の価値が低くなっているということです。
商品そのものの品質に変わりはないのですから、物価が上がるということは以前より同じ単位の通貨の価値が下がるということなのです。
ということは国債など債券も同じように、ひとつ当たり100円で手に入るはずのものが、満期のときにはその100円自体の価値が下がってしまうのです。
要するに、債権の価値が減ったということになります。
長期債の場合、満期までの期間が長いので、その間の物価変動のリスクは短期債に比べて高くなります。
長期債の価値が減ったということは、新規発行の国債の利率を上げなければなかなか買ってもらえないということです。
低インフレ・デフレの場合
高インフレの場合とは逆になります。
長期債を持つリスクが低いのですから、相対的に長期債の需要が高まります。
デフレ(物価低下)の場合にいたっては、むしろ将来、長期債の価値が実質的に高くなります。
長期債の価値が上がったということは、新規発行の国債の利率を下げても十分に売れるということです。
ポイント
長期債は満期までの期間が長い分、投資家はその間の物価変動を予想し、どれくらいのインフレ率になるかを考えます。
これが期待インフレ率と呼ばれるものです。
期待インフレ率が高ければ長期債の需要は減って金利は上がり、低ければ需要は高まって金利は下がります。
国の経済成長率
ここでいう経済成長率とは、GDP(国内総生産)などの指標によるものです。
成長率アップ(GDP上昇)
成長率が上がるということは、民間における資金需要が高まるということです。
資金需要が高いということは、各投資家などは手元に現金などすぐに使える金融資産を持ちつづけようとし、長期間に渡って換金できない長期債の需要は低下します。
それはすなわち、長期金利の上昇を意味します。
成長率ダウン(GDP減少)
逆に、民間における資金需要が下がり、長期債の需要は増してその金利は低下します。
潜在的なリスク
最後に投資の常として、投資家は長期債の購入に対するメリットとデメリットを考慮し、リスクがどれほどなのかを考えます。
長期債といえばほとんどの場合、長期国債のことですから、その判断の指標となるのはもちろんその国の財政などに関する状況です。
リスクが高いと判断すれば、それに応じた高い金利でなければ割に合わないと判断し、逆にリスクが低いと判断すれば低金利であっても納得します。
すでに見てきたように、だからこそ国の側は長期国債のリスクが高い=価値が低いと市場で判断されると、その利率を上げざるをえないのです。
こうしたリスクに応じた対価の上乗せ分のことをリスクプレミアムと呼ぶこともあります。
まとめ
基本的に投資家は、次の4つの要素を考慮に入れて総合的に長期国債の価値、つまりはどの程度の長期金利が妥当か判断します。
- 短期金利
- インフレの度合い
- 国の経済成長率
- 潜在的なリスク
これらの指標が上がれば長期金利は上がり、下がれば長期金利は下がります。
このように市場の投資家は長期金利を、現在の経済状況から未来のそれを予測し、総合的に判断します。
国債、特に長期国債(の金利=長期金利)を考えるには、短期金利を含め、経済全体の仕組みと現在の状況をよく把握する必要があるのです。
そのため、長期金利がその国や地域における経済の状態を示す重要な指標とみなされるのです。
Q. 長期金利が影響を与えることってどんなことがある?
長期の経済予測の結果が長期金利であるため、さまざまな判断材料に使われます。
国や中央銀行の政策だけでなく、たとえば個人が組むローンなどもこの長期金利を参考に決められます。
このように、現在の長期金利は直接的に個人や法人、公的機関の経済活動に影響を与えているのです。
Q. 結局、長期金利と短期金利の関係ってどういうことなの?(長短の金利差が意味するもの)
これも分けて考えましょう。
ただしその前に、通常、短期金利より長期金利のほうが高くなること(逆転現象)はめったにないということを頭に入れておく必要があります。
長く保有しつづけなければならない長期債のほうが常にリスクは高いため、それに応じて長期金利も上昇するからです。
景気回復期:不況からの脱出
すでに見てきたように、国や中央銀行は民間市場への資金の流入量を増やして経済を刺激するために、短期金利を押し下げる政策をとります。
景気拡大期 前半:好景気へ
ほとんどの場合、好景気になるとインフレになります。
適度なインフレが経済の好調さを表すバロメーターになっているのは、そのためです。
先に述べたとおり、インフレ予測が高まると長期債の実質的価値が目減りすると予想されるため、それにつれて長期金利は上がっていきます。
結果:景気回復期~景気拡大期 前半
短期金利 ↓(ダウン) 長期金利 ↑(アップ) ⇒ 長短の金利差 ↑(拡大)
通常、長期金利のほうが短期金利より高いため、これはすなわち長期と短期(長短)の金利差が広がることを意味します。
景気拡大期 後半:金融引き締めへ
好景気が長く続くと、今度は国や中央銀行が過度のインフレや景気の過熱=バブルを警戒して、金融の引き締めに入ります。
民間市場へ直接的に資金を投下する量的緩和の縮小もそのひとつですが、ここでポイントになるのは、やはり利上げです。
すなわち、中央銀行による短期金利の引き上げです。
景気減速期:不況へ
景気が頭打ちとなって経済が失速しはじめると、好況時とは逆の現象が起きます。
今後不況に陥る可能性が高いということは、インフレ期待は薄く、経済成長も見込めなくなる――つまり、長期債を持つリスクは相対的に低くなり、長期金利が上昇する要因が小さくなる結果、その長期金利は押し下げられます。
金利が低くても長期債が売れる状況になるとも言い換えられます。
しかも、すでに短期金利は上がっているのです。
ここで見たように、長期金利を引き下げる要因がすべてそろったことになります。
結果:景気拡大期 後半~景気減速期
短期金利 ↑(アップ) 長期金利 ↓(ダウン) ⇒ 長短の金利差 ↓(縮小)
通常、長期金利のほうが短期金利より高いため、これはすなわち長期と短期(長短)の金利差が狭まることを意味します。
まとめ
景気回復期~景気拡大期 前半:長短の金利差「拡大」 景気拡大期 後半~景気減速期:長短の金利差「縮小」
ここからわかるのは、その時々の長短の金利差を見れば、現在と近い将来の景気をはかることができるということです。
基本的に、上り調子の好景気の時は長短の金利差は大きく、反対に下降局面ではそれは小さくなります。
長期金利が中長期での経済予測を示すものであるのに対し、長短の金利差は現在の状況と短期での経済予測を示すものであるともいえます。
Q. 長短の金利差が逆転することってないの?
多くはありませんが、実はあります。
過去のデータからすると、この逆転現象が発生してからおおよそ2年後に長期的な景気後退期に入ることがわかっています。
あのリーマンショックのときもそうでした。
「景気拡大期 後半~景気減速期」で起きるようなことが過度に進んだ場合、この逆転現象が発生します。
つまり、国や中央銀行が金融を引きしめすぎ=短期金利を上げすぎ、一方で長期金利を上げる要因が小さくなって相対的に長期債の需要が高まりすぎた場合です。
これは、見方によっては国や中央銀行が景気判断を誤ったともいえますし、民間市場における景気の今後に対する予測が非常に厳しいものになっているともいえます。
こうした長短の金利差が逆転する現象のことを、長短の金利=利回り(yield)が逆転しているので「逆イールド」と言ったりもします。
この逆イールドこそが、好況から不況への転換点になることがあるのです。
そして今(2019年)まさに、それが世界の主要国で実際に起きはじめているのです。
果たして、以前のように約2年後に大規模な不況に陥るのでしょうか。
それとも、経済の現場で従来の考え方が通用しなくなっている現在、まったく別のことが起きるのでしょうか。
現段階では、まったく予測がつきません。
Q. 逆といえば「マイナス金利」はどういうこと?
これは、各国の中央銀行が短期金利の目標=政策金利をマイナスになるように設定することをいいます。
本来、どんな金利(利回り)であってもマイナスになることはありません。
話は単純、金利がマイナスになるということは、お金を貸した側が借りた側に利子を支払う、すなわち貸した側が損をして借りた側が得をするというおかしなことになってしまうためです。
それでは本来、誰もお金などを貸すはずがありません。リスク評価以前の問題です。
一昔前ならば信じがたい話ですが、現在では日本をはじめ主要国で導入されている場合もあります。
Q. 中央銀行はそもそも、どうやってマイナス金利に誘導するの?
短期金利の誘導方法
世界各国では基本的に、民間銀行は預金の一定割合を「準備金」として中央銀行の当座預金に預け入れしなければなりません。
これを導入する理由は預金者を保護することや、民間銀行を一定の管理下に置くことがあげられます。
しかし現在ではそれに加えて、まさにここまで述べてきた短期金利を中央銀行が操作する目的も非常に大きいものがあります。
具体的には、民間銀行が納める準備金の率=預金準備率を引き上げれば、民間銀行の余裕はなくなって貸し出しが減り、民間市場における資金の量が減って景気は抑え込まれます。
逆に預金準備率を引き下げれば、民間銀行に余裕ができて貸し出しが増え、民間市場における資金の量が増えて景気は盛り上がります。
これによって、中央銀行は短期金利を操作しようとするのです。
マイナス金利の導入方法
準備金であっても、民間銀行が中央銀行にお金を預けている=貸していることには変わりはありません。
そのため、法律などで定められた額を超えた分については、民間銀行が中央銀行から利子を受け取る場合があります。
この辺は、個人が銀行にお金を預ける場合と同様です。
マイナス金利政策は、まさにこの利子・利率をマイナスにしてしまうことなのです。
Q. なんで民間銀行を苦しめるようなことをあえてするの?
すべては、民間市場へ流れる資金の量を増やすためです。
中央銀行に資金を預けることは民間銀行にとって、これまで最も安全な運用方法でした。
しかし、中央銀行に預けたままではかえって損をしてしまう状況になった以上は、民間銀行は嫌でも他へ投資せざるをえません。
つまりマイナス金利政策とは、中央銀行が民間銀行に無理やり市場へ資金を流させる無茶な政策ともいえます。
Q. 民間銀行側のマイナス金利対策は?
最も安全な運用先を失ったからには、次に安全な運用先を探すしかありません。
国債です。
しかし日本の場合、中央銀行である日銀はさらに手を打ちました。
その国債すら、日銀ができるだけ買い占めてしまうのです。
これでいよいよ民間銀行側は、リスクを負ってでも他へ投資せざるをえない状況に陥りました。
Q. マイナス金利と国債との関係は?
上記のように、中央銀行が自国の国債を大量に購入するというのは異例中の異例です。
しかしそれがなくとも、マイナス金利政策は国債市場に影響を与えます。
民間銀行が次の安全資産である国債に投資しようとするのは明らかなため、投資家など市場関係者は「国債の需要が増すだろう」と予測します。
そのため、基本的にマイナス金利を導入すると、国債の金利は低下するのです。
日本ではすでに、一部の国債がマイナス金利となってしまっています。
これはすなわち、国債を買えば買うほど損をするということです。
Q. なんでマイナス金利の国債をあえて買うの?
その理由は単純、それほど投資家や民間銀行は運用先に困っているのです。
「多少損をしても、大損するよりはまし」というわけです。
昨今、好調な企業は自己資金が豊富で、かならずしも民間銀行などから融資をしてもらう必要性がありません。
ベンチャー企業ですらそうです。
となると必然、投資先はリスクが高めのところばかりになってしまうのですが、安全な運用を考えると無理ばかりではできません。
民間銀行などは、今は損をしてでも将来国債の利回り(金利)がよくなることを待っているとも考えられます。
また別の面では、金融商品としての国債の信頼性と、そしていざとなったらすぐに売って現金化することもできる換金性の高さを評価しているともいえます。
Q. マイナス金利政策の結果は?(弊害は?)
現状、主要国では日本とEU(ヨーロッパ連合)がすでに導入していますが、うまくいっているとは言いがたい状況です。
特に日本ではデータからも、肝心の民間銀行から市場への投資が思ったほど増えておらず、民間銀行側の経営難や日銀の過剰な国債保有=資産増など、弊害が顕著になってきました。
その結果、長期金利=「長期国債の利回り」が極端に低くなりすぎています。
特に民間銀行の経営は苦しく、大手行すらリストラを始めているくらいです。
2019年現在、個人の口座にも維持手数料をかけようなどという無茶苦茶な議論がされているほど、その弊害が顕著になってきました。
Q. 結局、国債ってなんなの?(まとめ)
国債とは本来、国が足らない資金を集めるために効率よく借金するためのシステムでしかありません。
しかし、世界各国で国債の発行が常態化し、さらには流通市場で大規模に取引されるようになったことで、非常に重要な金融商品のひとつとなりました。
通常の商品と決定的に異なるのは、国が後ろ盾になっていることです。
究極の安全資産とみなされるようになった国債は、やがてその国の経済の状況を示す一種のバロメーターともなりました。
その結果、国(政府)や中央銀行にとっても単なる「国の債権」ではなく、ときには重要な政策目標ともなるのです。
資本主義経済が大規模に、かつ深く世の中に普及したことで、国にとっても民間にとってもひとつの重要な基準となっているのです。
マイナス金利政策や中央銀行による国債の大量購入、はてはギリシアやアルゼンチンのデフォルトなど、今後、国債という存在、そしてそれにからむ周辺の事物がどのようになっていくか、まったく予断を許さない状況が続くでしょう。
われわれにとって最も大事なのは「油断しないこと」――なのかもしれません。